コムロゾーン

 
火の鳥「――猿田。あなたは醜い」
猿田「どうもー。宇宙生命(コスモゾーン)でーす。よろしくお願いします」
火の鳥「ねえ猿田。小室が引退ですってよ」
猿田「まさかその話題か」
火の鳥「ショックだわ。だってほら、私たちどっぷり小室ファミリーの世代じゃない」
猿田「いや、お前に世代とかないだろ。何十億年も生きてるんだから」
火の鳥「私たちが中学生だった90年代後半と言えば小室ファミリーよね」
猿田「中学生だった……?」
火の鳥「小室ファミリーと、モーニング娘。と、SPEEDよね」
猿田「…………」
火の鳥「懐かしいわ。ASAYAN」
猿田「…………」
火の鳥「日曜日の夜は、8時からごっつええ感じ観て、9時からASAYANなのよね」
猿田「…………」
火の鳥「それで月曜日の学校で、みんなキャシー塚本とモーニング娘。の話してたわよね」
猿田「…………」
火の鳥「それでその夜にはHEY!HEY!HEY!をやってたんだから贅沢な時代よね」
猿田「…………」
火の鳥「ほんとうにね……」
猿田「…………」
火の鳥「…………」
猿田「……えっ、なにこれ。火の鳥でもなければ漫才でもないし。なにこの漫然とした回顧トーク。なにこれ、同窓会? 中学時代の同窓会? やめろ! 世代以外の人、置いてけぼりだろ! 俺こないだ職場でひと回り下の女の子にごっつええ感じの話をしたらポカンとされて、あ、You tubeでちょっとだけ観たことありますよ、とか気を遣われたんだ。それくらい世代トークは危険なんだ! 温度差がとんでもないんだ!」
火の鳥「ねえ、猿田は小室の曲でなにが好き?」
猿田「火の鳥は人の話をてんで聞かない!」
火の鳥「私はやっぱりDEPARTURESかしら。でもI'm proudもいいわよね。BE TOGETHERにもわりと思い入れがあるし、SWEET 19 BLUESなんかも意外と好きよ」
猿田「ふ、ふうん……。セレクトでボケたりしないんだな。わりと真っ当なんだな」
火の鳥「すごく彩ってくれたわよね。私たちの中学高校時代を。小室は」
猿田「う、うん……」
火の鳥「ほんとうにね……」
猿田「…………」
火の鳥「…………」
猿田「……マジか。今回マジか。これでおしまいか。こんなことってあるのか」
火の鳥「あるのよ。何十億年もの歳月の中には、こんな漫才だってあるのよ」
猿田「何十億年ってお前、ただの1980年代前半生まれの雑談だろ、もういいよ」
火の鳥「ありがとうございました」
猿田「なあそれ、小室に言ってんのか」
火の鳥「…………」
猿田「……おい、お前、もしかして、泣いてんのか?」