嘴亭萌え狼らくご「雪林と去近」

<鑑賞>
 とある俳句門下の物語。その道にその人ありと謳われた俳人・清劫(せいこう)には、一番弟子がふたりいた。このふたりこそがやがて俳句界を二分する凄絶な争いを繰り広げることとなる、雪林(ぜつりん)と去近(きょこん)であった。同時期に入門したふたりは互いに切磋琢磨し、すぐに頭角を現す。ふたりはライバルであると同時に、親友であった。雪林は多作であるのに対し、去近は寡作と、句作への姿勢に違いこそあったが、その実力を認め合う仲だった。そのふたりの間に亀裂が入るきっかけとなったのが、清劫の最後の弟子である万古(ま○こ)の存在であった。見目麗しい妹弟子を巡り、雪林と去近は熱い火花を散らす。それぞれが万古を振り向かせるために作った句の数々は、その並々ならぬ情熱ゆえに、彼らの最高傑作と位置づけられている。果たして万古はどちらの俳人を選ぶのかと周囲の注目を集める中、彼らにとってショックな出来事が起る。師匠である清劫の死である。享年88。弟子たちの醜聞が世間を賑わせる失意の中、数々の名句を遺した近代エロ俳句の巨匠は寂しくこの世を去った。師匠の死によって頭を冷やした雪林と去近だったが、そんな折に万古の妊娠が発覚する。果たしてどちらの子なのか。しかし雪林には判っていた。雪林は万古に挿れたことなどいちどもなかったからである。雪林は万古とライバルのしあわせを願い、姿を消す。しかし同時に去近も判っていた。去近は万古に嵌めたことなどいちどもなかったからである。去近は万古とライバルのしあわせを願い、姿を消した。ふたりの男がいなくなったのは、清劫の四十九日の朝だった。万古はひとり、清劫の墓に向かって手を合わせる。そして、お腹の子を立派に育て抜くことを誓うのだった。後の世に俳句の本質そのものとまで言われる作句法を生み出した伝説の俳人、捨聖(しゃせい)誕生のお話。

<解説>
 嘴亭萌え狼、60歳の作。たぶんエロ小説かなんかを読んでいて、エロ用語の二字熟語ってちょっと俳号みたいだよなあと思ったのがきっかけで作ったのだと思われる。つまり登場人物の名前がこの噺のすべてである。メロドラマのようなストーリーに、そう大した意味はない。噺の中で、登場人物の作としていくつかの句が披露されるのだが、その句が「なかへはいりたがっているちんこ」だの「くぼみというくぼみれろれろ」だのといった自由律エロ俳句ばかりで、ちょっとどうかと思う(自由律俳句の一門だったのか)。あと女弟子の名前が普通に放送禁止用語なので、電波に乗せる際はピー音が入る。もっとも基本的には電波に乗らない。乗ったことがない。